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エネルギー地産地消で町おこし

オーストリアのハンガリー国境に隣接した林業中心の小さな町、ギュッシング(Güssing)は、人口4000人で労働人口の2/3が無職というとても貧しい町でした。1990年代にヨーロッパ初の再生可能エネルギーの地産地消に成功し、数々の企業がギュッシングの安い電力に惹きつけられてきました。現時点では60以上の企業がギュッシングへ移転し1500人の雇用につながりました。この小さな町だけで18億円以上のエネルギー収入があります。EU指針では2030年までにカーボンニュートラル率(生産過程で排出される二酸化炭素と植物により吸収される比率)を50%とする事を目標としています。ギュッシングではすでに80%まで達しているそうです。今回は、ギュッシングのエネルギー地産地消への道のりについてお伝えいたします。

1988年にはこの地域はオーストリアで一番貧しく、交通網も乏しく、とても高い失業率を保っていました。就業者の70%が160km離れた首都のウィーンまで働きに出ていました。鉄道も高速道路もないこの街は、とても高い電気・ガス・灯油代に悩まされていました。毎年暖房用に9億円相当の灯油が必要でした。そんな中、このお金を地域経済の活性に役立てる使い方ができないだろうか、と考え始めた人達がいました。エネルギーを自給する方向で話はまとまりましたが、自給するには消費量を減らす必要がありました。そこで1990年に全ての公共施設に木材製の断熱材を入れ、全ての街灯に省エネランプを使用し、エネルギー消費量をほぼ半分に減らしました。そして、公共施設での灯油の使用をやめ、その分のお金を地域経済活性へ費やすことにしました。

ギュッシングは太陽や風の代わりに、森林に囲まれた町のため、木材(バイオマス)が豊富にありました。そして、森林の木々・木くずは使用されることなく腐っている状態でした。小さなバイオマスボイラーの使用から始まり、1996年には町全体の暖房がバイオマスボイラーにて賄われました。さらに、森林の木くずは発電にも使われるようになりました。2001年にはオーストリア政府の援助の下、世界初の木くず・木材廃棄物ガス化発電所を建設しました。蒸気を用いて炭素と水素を分離させ、再度結合させることによりバイオマスから天然ガスを生成し発電に使用することが出来るようになりました。年間成長量のわずか1/3のバイオマス(木くず・木材廃棄物)を森林から調達し、町全体の消費量を大きく上回る2MWの発電力、4.5MWの発熱の供給が可能となりました。またアブラナ油からバイオディーゼルを生成する工場も建設し、地域のすべてのガソリンスタンドへ供給しています。

2007年にNew York Times誌がギュッシングを取り上げ、科学者・政治家・観光客が訪れるようになりました。2008年には次世代燃料研究所を設立し、太陽光発電パネル製造会社がギュッシングにて製造を始め140人が雇用されました。その他にも数社の太陽光パネル製造者がギュッシングへ移住し町全体がデモ施設となりました。

日本は風力・地熱・木材・海流、と色々なエネルギー供給の可能性があるのではないでしょうか?安い電力は必ず生産業を惹きつけます。そんな、地域活性モデルが日本にあっても良いのではないでしょうか?

ちなみに、オーストリアにはツヴェンテンドルフ原子力発電所(福島第一と同型)という建設されたが運用された事のない原子力発電所があります。10億ユーロの費用をかけ1977年に完成し翌年から稼働する予定でした。が、翌年1978年の国民投票により原発稼働反対が半数以上を占めたため(50.41%)、運転は否決されました。

また、ドイツにも同様に建設されたが運用された事のないカルカー原子力発電所があります。こちらは70億マルク(4兆4800億円)の費用をかけ1985年に建設されましたが、州政府が稼働許可を出さないまま1986年にチェリノブイリ事故を経て、結局1991年に運用しないことが決まりました。その後、解体には費用がかかりすぎる為、オランダの投資家が2500万ユーロ(27億円)で落札し、巨大娯楽施設となりました。冷却塔は落下椅子(遊園地にある無重力になる落下塔です)、外壁はクライミングウォール、その他数々の娯楽設備があるそうです。

 

 

 

参考サイト

http://www.polenergie.org/une-commune-autonome-en-energie/

https://cleantechnica.com/2013/10/16/renewable-energy-powered-austrian-town-gussing/